ESSAY

作詞家 松井五郎先生からのStory

出逢いのインパクトは強烈なタイトルでした。恋の三角関係を歌った「薔薇の戦争」。

ここから失恋の物語がいかに美しく歌になって行くのか…

松井五郎さんの沢田知可子ファイルは恋の駆け引きからはじまりました。

『言葉のナイフが胸に隠してある・・・下手に触れたなら、傷つくのは誰なの?』

この恋が成就するわけもなく、ゆえに「Soiree」が生まれます。

『さよならがもう ふたりを迎えに来る夜・・・』

この歌にSoireeという単語は出てきませんが、別れのシーン、その瞬間を「Soiree」という

タイトルにしたことで、バラードという歌の世界観をより一層美しく引き立ててくれました。

星の数ほど作詞されて来た歌の中で、これほど美しい単語を選んで下さった事に

今更ながら心から感謝を申し上げたいと思います。本当にありがとうございます。

「秘密in the Room」は失恋の余韻。恋の終わりを美しく描いた後で、すぐに新しい恋で

癒そうとしても、そんなに簡単に切り替えられない女心の本音を私に歌わせないでください。

思わずそう言ってしまいたくなるほど、見透かされているのが怖かった・・・。

『今の彼はとてもいい人 腕の中で眠らせてくれるから・・・』

『昔のことと 微笑んでる 嘘つきな わたしがいるわ』

それから間もなくして「会いたい」に出会い、私の人生は大きく変わりました。

私は自分で歌を作りたいという気持ちが強くなり、いばらの道を歩みはじめました。そして結婚という愛の選択は同時に失恋の歌の封印でもあったのです。

あの頃幸せを手に入れた私は「さ、何を伝えて行こうか・・・」という人生の迷い道で幾度となく遭難しながら、気づくと時代に乗り遅れ、音楽シーンはすっかり様変わりして行きました。

が、しかしもとより他力本願で楽天的な私はもっと俯瞰してもらうべきと、再びプロフェッショナルな力を求める事となります。信頼する方からのひと言「困った時の松井五郎さんだよ」と、15年ぶりに歌詞をお願いする事になるのです。何があっても夫婦二人三脚で乗り越えてきた私達への讃歌とも言うべく「言葉じゃなくても」はこの15年の遠回りを肯定して下さいました。

『言葉じゃなくても 重なる気持ちがある 今までの二人だけに幸せの意味がある』

『言葉じゃなくても 拭えた涙がある これからの二人になら思い出もあたたかい』

もう言葉にできないほど嬉しかった・・・。自己肯定を促してくれたこの作品を尊敬する杉山清貴さんがデュエットしてくださいました。

アルバムLIFEでは終活をテーマに「いつか思い出になるまで」が生まれました。

『幸せはたぶん ありふれた顔で 心に寄り添う そんな気がする』

『人生はたぶん ありふれていても二つとないものそんな気がする』

これはほんの少し距離を縮めてもらえたような作品でした。

そしてコロナという目に見えない怪物に翻弄された2020年は「会いたい」から30年目の節目でもありました。ポップオペラの藤澤ノリマサさんとのご縁で再び松井五郎さんにお願いして

デュエットソング「I Feel」が完成しました。

会えなくてもそばにいる・・・をテーマにコロナ禍で自粛を余儀なくされ、会いたい気持ちがあふれ、命の尊さを噛みしめた、この時期ならではの愛の歌です。

この歌に私自身も救われた2020年。そんな中、更に素敵なテーマを投げて下さいました。

「会いたい」のヒロインはあれからどうしてるだろう・・・ちょっと書いてみたいな。

「時がめぐるなら・・・」の歌詞は時を超えて天国からラブレターが届きました。

この物語に素晴らしい旋律が流れ、最高傑作が誕生しました。

タッグを組んだ藤澤ノリマサさんとは20年も年の差がありながら、これほどにその差を活かしてもらえた作品があったでしょうか・・・。

このシチュエーションがあったのか・・・という圧巻のデュエットソングとなりました。

33年の歌手人生の中で書いて頂いた作品は7曲ですが、松井五郎さんの沢田知可子ファイルには

確実に人生の地図が繋がっていたのです。この物語をどうぞ一緒に分かち合って頂けますように。