ESSAY

沢田知可子のうたセラピーはじまります!

2020年5月1日よりスタートします「一般社団法人 文果組」という文化発信のサイトにて毎週金曜日 20時から「沢田知可子の歌セラピー」を配信させて頂くことになりました。

この文果組では落語家の立川談慶師匠の人気著書「教養としての落語」の解説や、アカペラコーラスグループINSPiのリーダー杉田篤史さんによる視聴者からの相談の内容を歌にして心を軽くするという「海を見ながら話そうよ」、読売新聞、朝日新聞等キャリア相談に応えてきたキャリアカウンセラーの小島貴子さんによる「キャリアの時間ですよ」など歌手、落語家、教育者、企業家が協働して、自粛ライフの気分転換に「学べて」「楽しめて」「癒される」暮らしに心の栄養をお届けして参ります。その第1回のスタートをなんと私が担当させて頂きます。代表曲であります「会いたい」をご紹介したいと思いますが、文果組のメンバーであるINSPiと共にアカペラの「会いたい」をお送りします。

ひと言で、~待ちわびたアカペラ「会いたい」~なんです。

このご縁は立川談慶師匠から「落語とアカペラ」のコラボレーションライブのお誘いを頂きまして、その時の談慶師匠のオリジナル落語とINSPiのアカペラが素晴らしくて、6人のメンバーの皆さんがとてもシャイで魂がツルツルでした。そのハーモニーの音色に感動した私はすぐに「会いたい」をアカペラで歌ってみたいと思い立ったのでした。すぐさまINSPiのリーダーである杉田篤史さんはじめ北剛彦さん、大倉智之さん、奥村伸二さん、渡邉崇文さん、吉田圭介さんと「会いたい」をアカペラレコーディングしたのは2014年の事でした。メンバーを自宅に招いて一人ずつ小さなスタジオでそれぞれのパートを録音して行きました。アカペラアレンジはベース担当の吉田圭介さん。今やLittle Glee Monsterのコーラスディレクターとして活躍されており、彼の洗練されたアカペラアレンジは絶品でした。7人のハーモニーが完成したときの高揚感と興奮、アカペラが当たり前のメンバー達も私があまりにも絶賛するので流石に照れて(ひいて?)いました(笑)幾重もの声の波動に包まれた歓びを早く届けたい気持ちでいっぱいでした。ところが、デュエットアルバム「Sing with Me♪」に収録されるはずだった珠玉のコラボレーションは幻となってしまったのです。発売日に「会いたい」の作詞家である沢ちひろさんから起訴されてしまい、初回プレスのアルバムは全て回収され、このアカペラ「会いたい」withINSPiはお蔵入りとなってしまったのです。

あの時のショックはとても衝撃的で、マスコミからは「会いたい騒動」と揶揄されて相当傷つきました。何よりも沢ちひろさんの心情を思うと本当に悲しくて仕方ありませんでした。裁判の争点はアカペラのイントロに英語の歌詞が入ったことと、「会いたい」with INSPiというタイトル改ざんというこの2点でしたが、沢さんはその前のバラエティー番組での替え歌の時にも憤慨されて、局へのクレームも大変な事となっていたそうです。それでも沢さんが沢田知可子を許せなかった一番の理由は音楽制作での価値観のずれが生じて、彼女はそのプロジェクトから外れたのですが、最終的に私が沢さんを選ばなかった事への感情が爆発してしまったのです。精神的に離婚のような状況になり、その時は「会いたい」はもう歌わせないからとメールが来て、沢さんをここまで怒らせてしまったショックは計り知れませんでした。

それから数年後に結局裁判となり、アカペラ「会いたい」はお蔵入りになってしまったのです。もうINSPiのメンバーへの申し訳ない気持ちと朝から辛口なコメンテーターの言葉に、思わず悔し涙が流れました。制作サイドからは「会いたい」を封印しろとも言われていた最中、「会いたい」の作曲家である財津和夫さんのソロコンサートにゲストとして招いて頂きまして、「正々堂々胸を張って歌って・・・」と優しく励まして下さいました。あの時の財津和夫さんの言葉が私にとって希望と勇気と許しを与えてくださいました。裁判は半年で沢ちひろさんが取下げる結果となりましたが、このまま沢さんとのシコリを残したままではいられないと思っていた時に沢さんから「あなたを赦します。」と最後のメールを頂きました。沢ちひろさんは翌年のはじめにご病気で他界されてしまったのです。その事実を知るのは一年後でした。

「会いたい」を生んでくれた人を癒やせなかった自責の念・・・。その想いを救ってくれたのはご遺族でした。沢さんのお姉様から「会いたい」を歌うことが一番の弔いになりますから・・と大切に歌ってあげてほしいとご連絡を頂きました。とは言うものの今更INSPiとのアカペラ「会いたい」をもう一度発売させて下さいと中々言えませんでした。ところが、もう一度このご縁を繋いでくれたのが立川談慶師匠であり、文果組代表理事として発足者である神保富美子さんだったのです。INSPiのリーダー杉田君も快く受け入れてくれて、2019年12月のさいたま文化センターでの文化事業「歌ってさいたま!コンサート」で、待ちわびたアカペラ「会いたい」がようやく実現したのでした。

INSPiのメンバー全員にお会い出来たのは、あの楽しかったレコーディング以来5年ぶりでした。ほぼぶっつけ本番だったにもかかわらず、7人のハーモニーは一丸となって、鳥肌が立つほど美しいハーモニーに包まれていました。まさに最高の波動を共鳴した瞬間でした。

今までの何もかもを許し赦されたようで・・・歌い終わり、涙が溢れて仕方ありません。もう感無量・・・ましてや私の故郷で叶ったのですから・・。

この涙こそ魂がYESと応えてくれたサインです。

「会いたい」が気づかせてくれた歌セラピーはまさしく涙です。アカペラの声の波動で聴く「会いたい」はまさに格別です。私はこれからも涙を大事なバロメーターとして音楽を発信して行きたいと切に想います。

今やありとあらゆるストレスが当たり前の日々で、笑うことと同じくらい涙を流すことも同じ幸せホルモンと言われるセロトニンが分泌されます。そして涙にもいろいろな種類がありますが、共感の涙ほど素晴らしいものはありません。歌は5分の映画と言われるほどですから、ぜひとも積極的に今この自粛ライフのストレスにも取り入れて頂ければ幸いです。

令和2年5月1日   沢田知可子