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涙をぬぐって働こう
「涙をぬぐって働こう」 三好達治
みんなで希望をとりもどして涙をぬぐって働こう
忘れがたい悲しみは忘れがたいままにしておこう
苦しい心は苦しいままに
けれどもその心を今日は一たび寛(くつろ)ごう
みんなで元気をとりもどして涙をぬぐって働こう
最も悪い運命の台風の眼はすぎ去った
最も悪い熱病の時はすぎ去った
すべての悪い時は今日はもう彼方に去った
楽しい春の日はなお地平に遠く
冬の日は暗い谷間をうなだれて歩みつづける
今日はまだわれらの暦は快適の季節に遠く
小鳥の歌は氷のかげに沈黙し
田野も霜にうら枯れて
空にはさびしい風の声が叫んでいる
けれどもすでに
すべての悪い時は今日はもう彼方に去った
かたい小さな草花のつぼみは
地面の底のくら闇からしずかに生まれ出ようとする
かたくとざされた死と沈黙の氷の底から
希望は一心に働く者の呼び声にこたえて
それは新しい帆布をかかげて
明日の水平線にあらわれる
ああその遠くからしずかに来るものを信じよう
みんなで一心につつましく心をあつめて信じよう
みんなで希望をとりもどして涙をぬぐって働こう
今年のはじめのこの苦しい日を
今年の終りのもっと良い日に置き代えよう
この詩は昭和21年に書かれた三好達治さんの
敗戦の退廃した町で立ちすくむ人たち、心くじけた人たちに新しい季節への希望をよびかけた詩です。
「涙をぬぐって働こう」というフレーズが最初と最後に出ています。
呆然自失している世の人たちへ、呼びかけています。
それは、自分自身にも言っているので、すごく説得力があります。
この詩を声に出して、心を込めて読んでみると
ことだまに生きる力がみなぎっているのを、全身全霊で感じます。
身震いするほど今と重ね合わせることができる作品です。
この詩を送ってくださったクリエイティブな友人のご縁で、同じ時代に詩人であった永瀬清子さんの「美しい国」という作品に出会うことができました。
敗戦後の日本に大きな希望と未来を込めて、「美しい国」や、この「涙をぬぐって働こう」という作品が
芸術家たちのことだまとして生まれました。
今を担う芸術家たちも同じ思いをことだまにされていることでしょう。
この私とて、はやく歌を届けに行きたい気持ちでいっぱいです。
しかし今はただひたすら、そのご縁が巡ってくるのを
じっと耐えて待っています。
「美しい国」にメロディーをつけたように。
「雨二モ負ケズ 風ニモ負ケズ」を歌うように。
この「涙をぬぐって働こう」も魂に響く歌になるのでしょう・・・・。
そんなことだまを歌にして、被災地に届けたいと心からそう想う・・・。
想うだけじゃだめなんだ・・・私! はたらこう・・・。